「街の外?」
「時間がないぞ。ハマとヤマが仲のよいことは本部も知っている。だから、ハマがヤマに手を下すことを拒んだ場合の行動もすでに決定済みだ。この街ごと爆破される。もう今頃、時限スイッチを押す準備を始めている頃だ。おそらく、他の研究員や我々が連れてきて住人の避難が完了したと同時にスイッチは押される」
柊の言葉を受けて、アニメっぽくデフォルメされたきのこ雲を茜は連想した。ここが火の海に包まれる姿をリアルに想像できなかった。いや、したくなかった。怖がってブルブル震えている場合じゃない。
だからあえて、具体的な想像はしなかった。
「簡潔にプランを説明しよう。今のヤマの生命力は並大抵のものではない。が、とりあえず気絶させて移送すれば、なんらかの手立てがみつかるかもしれない。ほとんど、プランってものでもないが、これくらいしか今は思いつかん」
「私にできることは?」
「ヤマの注意を引いてくれ、今のハマは腑抜けだ。頼りにならん。そこでわたしが車を猛スピードで突っ込み。ヤマをひく」
「ひいて、だ、大丈夫なんですよね」
「むろんだ。ハマは覚醒したヤマの生命力を舐めている。多少のことくらいじゃ死なん」
柊から拡声器を渡された。どっから用意したんだ、と突っ込みをいれている暇はなさそうなので、さっそくヤマに向かって話しかけた。すぐに柊が運転席に乗り込んだ。
「こらー、人を心配させんのはいい加減にしろー。人騒がせなー。私を助けにきたんだったら、それっぽいことしてみろー」
大音量で茜の声が街中に響いた。セリフを考えている余裕がないので、ずいぶん適当な感じではあるが、近距離でこの大声は効果があるらしく、ヤマはこちらを向いた。
「ヤマちゃん?」
「やれ、ハマ。駄目だ。体が勝手に……」
言葉が終わる前に、ハマの腕に食い込んでいたヤマの指が外された。そして、その指先は、別の方角――茜に向けられていた。
獣の咆哮と金属音を混ぜたような、あの声が発せられる。ヤマは完全に自我をなくしていた。
「ヤマちゃん!」
ヤマとの距離をある程度確保していたつもりの茜には、ヤマが瞬間移動をしたのかと錯覚した。気がついた時には、漆のような腕が眼前に振り下ろされるところだった。
「――――あ……」
間近で見ると、漆黒のようなヤマの肌の色は人間では絶対にありえない色をしていることがわかった。黒にやや青みがかかっていた。綺麗な色だ、となぜか茜はそんなことを考えた。
次の瞬間、血飛沫が舞った。
てっきり自分の血だとばかり茜は思った。けれど、彼女に傷はなかった。
代わりに目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
ヤマの胸が貫かれていた。ハマあの腕によって。完全に貫通し、風穴が開いていた。
「僕、茜ちゃんを助けようと思って、……ヤマ、ちゃんを、ヤマちゃんを……」
ヤマが地面に倒れた。胸から、おびただしい血液が流れ出る。
「なんてことを、僕は、ああああああ」
ハマは泣き崩れた。その時、柊の車が茜たちのすぐ横に止まった。
ぷちあとがき
気がつくと連載開始から一年と十ヶ月がたっておりました。
長らくお待たせいたしました。次回最終回でございます。
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