アンタたちの行動はいちいちワケわかんないのよ!

 

 玄関から飛び出ると、ヤマは茜の手をつかんだままものすごいスピードで走り出した。
 茜はそこまで運動音痴というわけではなかったが、誰かに手を引かれながら走るというのはけっこう難儀なものだ。気を抜いたが最後、今にもバランスを崩して転びそうだった。

「ちょっと。ちょっと待ってって」

 茜は思わず声を上げた。しかし、黙ってついて来い、と一喝されるだけだった。それでも勝気な性格の茜は逆に反発心を芽生えさせ、手を振り解こうと腕に力をこめる。

「待ちなさいって言ってるでしょ!」

 走りづらいのは手をひっぱりながら走る方とて同じこと。抗う(あらがう)茜を無視しきれなくなったヤマは仕方なしにスピードをゆるめる。

 同時に鋭い視線を周囲に走らせた。何かを警戒しているようだ。

 差し迫った危機に瀕していないことを迅速に確認したヤマは、すぐ近くの植え込みの影に隠れるように身を屈めた。茜も状況が理解できないながらも、それにならう。なんだかんだ言いながら、茜もやはり怖いのだ。

「アンタたちの行動はいちいちワケわかんないのよ。いい加減にしてよ、もう」
 地面に直接座り込みながら、茜が心底うんざりした調子で訴えると、ヤマのほうも若干茜に対して同情的になったようだ。迫力満載のいかつい表情が多少はゆるんだ気がした。 

「わかった。時間はないが、手短に説明しよう。それで、どこまで認識しているんだ?」

 茜はあごに手をあてる。ええと、とつぶやきながら先ほどハマから聞いた内容を反芻(はんすう)した。

「退去命令がこの街に出てて、でも出入り口は封鎖されてて、政府が生物実験をするんだけど、内容は極秘で、対処のしようがないから、もう死ぬしかないって」

 すると、ヤマは眉間にしわをよせ、しぶい表情を浮かべた。
「ハマがそう言ったのか?」

 茜が頷くと、ヤマは深いため息をついた。

「あいつは無駄に愛想がいいから勘違いする奴も多いが、人畜無害な顔して平気で嘘をつくことがあるから気をつけたほうがいい」

「うそ? え、嘘なの? え、どこまでが?」
 驚いた茜が甲高い声をあげると、ヤマから即座に、大きな声を出すな、と叱られた。どうしてコソコソしなきゃいけないのかまるでわからない。いったいヤマは何の存在を警戒しているのだろう。

「退去命令と出口が封鎖されたのは本当だ。ずいぶん危険な状況にいるのも確かだ。だが、絶対に死ぬと決まったわけじゃない」

 そういえば、さっきヤマがジタバタすれば助かる、と断言していたっけ。

「一般人には確かに実験内容は公開されていない。しかし、我々にはちゃんと知らされている。万が一、救助に失敗し、脱出が不可能になった場合の対処法もな」

 対処法、という単語で重要なことを聞き忘れていた事実に気がついた。

「街全体を使うなんて大掛かりな実験、いったい、これから何をしようっていうの? 生物実験、って聞いて、私はまずウイルスとかを想像したんだけど」

 ウイルス? とヤマは茜の言葉を繰り返してから首を横にふった。

「仮に空気感染しないとして、こんな広い場所で菌を解放したら、回収は不可能だし、いつ空気感染するように進化するかわからない。そんな危険きわまりないことはいくらなんでもしないさ」

 じゃあ、なんなの? と茜が訊ねるより前にヤマが続きを話し出す。もったいぶるつもりは毛頭ないらしい。ハマの婉曲なしゃべり方とはずいぶん違う。しかし、それは言外に時間が差し迫っていることを表していた。
 それを思うと茜の中の緊張感が一段と張りつめたものになる。

「動物実験だ。それもただの動物じゃない」

 動物実験、と聞いてもいまいちピンとこなかった。白いねずみがケージの中でちょこまか動いている映像が茜の頭に浮かぶ。その想像を見透かしたようにヤマが低い声で続けた。

「実験対象は、マウスやモルモットなんて可愛らしいものじゃない。遺伝子操作によってつくられたバケモノだよ」

 いきなり話がぶっとんだ方向に流れた。遺伝子操作?

「兵器、以外に用途が思いつかないようなできそこないさ。そこで実際に試すことにしたんだ」
「つまり……?」
「つまり、そのバケモノが兵器に使えるか試そう、ってことだよ」

 ちょっと待ってよ。兵器? 何言ってんの。

 茜はとても信じることができずに思わず笑ってしまう。
 ヤマも少し笑った。しかし、茜の笑い方とは異なる、大いに皮肉的な笑みだった。

「この街にそのバケモノが放たれる。それでどうなるか、見てのお楽しみというわけだ。もちろん、人間も交ざってる。人を襲わなきゃ、兵器の意味がないだろ?」

 背筋が急速に冷たくなった。

 いくらなんでも、そんな話はおかしい。ここは平和な日本のはずだ。そんなことが起こり得るわけがない。
 しかし、この無音で無人の街が、ヤマが嘘を言っていない何よりの証拠ではないのか?

「バケモノと同時にこの街に放り込まれたのは主に凶悪犯罪を犯して死刑が確定した連中だ。ほとんどが自発的にこの実験に志願したらしい。二週間の期間をすぎて生き残れば、無罪放免が政府から約束されているからな」

 茜は必死に状況理解に努める。この街にそんな恐ろしいことが現在進行形で行われているなんて、容易には信じられない。死刑囚や化け物なんて単語は自分と隔たりのあるものだとばかり思っていた。そう信じてこれまで生活してきた。それが、すぐそこまで迫ってきているかもしれないなんて……。

 説明を受けたことによって、ますます混乱する一方の茜を横目に、ヤマは「これから始まるのは」とトーンを下げた声音で付け加えた。 

「命がけのサバイバルゲームだ」


ぷちあとがき

  久々に話を進めたら、当初ぼんやりと思い描いてた話とまったく違う方向に動きだしました。実は、ヤマとハマは天狗っていう話をちょっと考えてました。天狗って! ……(汗)どちらかというとSF風味ですかね。
 グロイ展開になってもオーケーですか? いや、私そんなの書けませんよ! いきなり宇宙光線とか魔法のステッキとか出てきてもついてきてくれますか? 

 

 

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