どうして自分の家に入るのに緊張しなきゃいけないのよ。面倒くさい展開だなぁ。

 

 自分のマンションまで戻ると、茜は一度深呼吸してからドアノブに手をかけた。どうやら二人は玄関から入ったらしい。昨夜確かにかけたはずの鍵が開きっぱなしになっている。

 靴下の状態で抜け出したので、そのまま上がる。部屋に帰ってきて靴を脱ぐ動作を行わないのはなんとも奇妙な感覚だ。なんだか土足で上がりこんだみたいである。

 不審人物は台所にいた。しかし二人組みのはずだが、片方が見当たらない。そして、なぜか一人きりで日本茶をすすってくつろいでいる様子だった。どこまで図々しいのだろう、と茜はあきれた。

 茜と目が合うと、にこにことやたら愛想のいい笑顔を向けてきた。

「勝手に使わせてもらってるよ。なかなかいい茶葉を愛用しているのだね。しかも湯のみ茶碗のセンスもいいね。僕、好みだよ。自分で選んだの? それとも誰かからのプレゼント?」
 あまりにも気安い口調だった。その瞬間、警戒心より腹立たしさのほうが上回った。

「世間話をしにきたんだったら、せめて私と知り合いになって、親しくなって、友達になって、っていう手順を踏んでからにしてくれない? なんなのよ、アンタたち」

 いきなり大声を出したせいか、にこにこ顔の男はきょとんとした表情で茜を見つめる。

「え? 茜ちゃんって僕達と友達になりたいの?」
「どこまでトンチンカンなのよ! そういう話をしてるんじゃないでしょう? だいたいなんで私の名前を知ってるのよ!」

「まあまあ、カッカしててもしょうがないんだからさ、座りなよ。順番に説明してあげるからさ」
 家主は自分であるのに、不法侵入者になぜ席を勧められなければならないのか。茜は無性に腹がたったが、話が進まないことも確かなので、大人しく向かいの席に腰を下ろした。

「ところで、もう一人の姿が見えないけど、どこに行ったのよ?」
 顔が怖い方のことを頭に思い描いた。

「ああ、ヤマちゃんはね、茜ちゃんを探しにいったんだよ」
「ヤマちゃん……?」

「あ、そうそう、彼がヤマで僕の名前がハマ、だから。ハマちゃんって呼んでね」
「……は?」
「でも気をつけてほしいだけど、僕もヤマちゃんも発音は「山」とか「浜」と同じじゃなくて、最初にアクセントがあって語尾は上がるから。しいていうなら、「鎌」と同じ、かな。そこは間違えないでね」
 

 茜の率直な感想としては、変な名前、と思ったが、あえて口に出すほどの重要性も感じなかったので、話を進めさせることにした。

「じゃあ、まずどうして私の部屋に入り込んでいたか、っていう理由から教えてもらいましょうか」
 目の前の男が妙にヘラヘラした態度――つまり軟弱そうで仮に攻撃されてもなんとかなりそうだという気になるような――なので、茜は少々偉そうな口調で訊ねた。

 すると、ハマと名乗った男はあからさまなため息をつきながら肩を落とした。
「本当は助けにきたんだけどね。でも、手遅れになっちゃったよ」
 茜は眉間にシワを寄せ、ハマを凝視した。
「どういうこと?」
 ハマは一瞬だけ何か思案するように目を伏せたが、すぐに作り笑顔のような、不自然なくらい整った笑顔を茜に向けた。

「まあ、ヘタに隠したりオブラートに包んで物を言っても、今の状況が変わるわけじゃないからぶっちゃけちゃうけど、」
 二人ともが口を閉ざしてしまうと、街が静か過ぎるという事実が再び茜の脳裏に浮かび上がってくる。部屋の壁に掛けられた時計の秒針だけがうるさいくらいに機械的な音を出し続けていた。


「このままだと、僕たち、あと数時間後には死んじゃうよ」


 プチあとがき

 適当に小説書くのは楽しいですね♪ でもこの適当っぷりで、はたして物語が完結するのでしょうか……(汗)そこだけが心配です。
 やっと謎の男の名前が出てきましたね。私、人物の名前を考えるのが苦手なので、案の定、ものすごく適当っぽいですねー。あはは。

 

 

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