キュウ
妖精はいつも僕のそばで静かに、まるで何かに耐えているようにじっとしているけれど、たまにうるさいくらいに声をかけてくることがある。 妖精が何を言おうと僕は寝ていたいだけだし、しかもそういう時の妖精はたいてい少し不機嫌なので、耳障りこのうえない。だから半分も聞いていない。 そんな状態がしばらく続くと、妖精の手が不意に僕の方に伸びてくる。 別に僕に危害を加えようとしている気配もない、悪意もたいして感じない。ただ単に腕を伸ばしてくるだけ、という感じだ。そして必ずその手は僕に触れる寸前でピタリと止まる。それでも。僕はその瞬間、嫌悪感、そしてなにより耐え難い恐怖感に襲われる。妖精に触られるかもしれない、そう思っただけで僕は恐ろしくて恐ろしくてたまらない。 なぜ? これは自分でも自分に説明ができない。僕は妖精のことが嫌いなわけじゃ決してないのに。むしろ、孤独に浸りきっているこの僕の唯一の救いと言えなくもない。 けれど、いくら美しい妖精といえども、触れられるのだけは我慢ならない。 潔癖症。そんな単語が脳裏にちらつくが、すぐにそれは違うと思った。妖精が片付けなければ、ちらかっていくだけのこの乱雑な部屋を見ればすぐにわかる。僕は口の端で笑った。 僕は潔癖症なんかじゃない。潔癖症なんかじゃ………。 僕は口の中でその言葉だけを繰り返し繰り返しつぶやき続けた。 |