イチ

 

 虚ろな目をした妖精が床の上で死んだように寝そべっていた僕にささやくように言った。

「ねぇ、このままじゃ……ユズルが壊れちゃうよ」

 その横顔はひどく悲しげで、切なくなるほど儚げだった。それなのに口の端は確かに上がっていて、僕には妖精が泣くのをこらえているようにも、笑っているようにも見えた。

 妖精は僕が何か言うのを待っているのか、その後の言葉は何も続かない。ただ、僕のすぐ隣に座り込んで心細そうに膝をかかえたまま、そっと目を閉じた。

 根本から数センチだけ黒い蜂蜜色の髪も、静脈がうっすらと浮き上がるくらいに白い肌も、荒れた唇でさえ、恐ろしいくらいに美しかった。

 妖精の蠱惑的(こわくてき)なまでの美しさは僕に言葉を失わせた。僕が何も言えないのは妖精に見惚れているからなのだということを妖精に説明できないのがたまらなく悔しかった。

 沈黙が二人の間に漂う。月のない夜の闇を思わせるような色濃い沈黙だった。

 妖精は心の底から吐き出したような深い深いため息をついた。

「そっか……。もう、とっくに壊れちゃってたか」

 渇いた声で独り言のようにつぶやきながら、妖精は静かに泣き出した。


 

 

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